傷つけてしまった……





一番大切なものなのに、一番守りたいものなのに、傷つけたくなかったのに…

修行の足りなさが、未熟さが、こういう結果を生んでしまった。

己の大切なものを己の手で傷をつける等…


五右エ門は只々、己の未熟さのせいと紫を傷つけた事を悔やみ、うなだれた。


洞窟の中、ルパン達はすでに先へ行き、ここには五右エ門と紫の二人だけ。

五右エ門は岩に座り、自分を気にかけて覗き込む紫の痛々しく包帯に包まれた腕を見つめた。


「だって、幻覚ガスのせいだもの、五右エ門さまは悪くなんかないわ。

私があの時夢中で五右エ門さまに向かって行ったから…、

無茶だって思ったけど…、でも、元の五右エ門さまにもどってほしかったから…。」

「…すまない、拙者がもっとしっかりしていれば…、これも拙者の未熟さが生んだ結果でござる…!」

ぎゅうっと、膝の上に乗せていた手を悔しそうに握り締める。


「でも!あの時…、あの時、私の声が聞こえたんでしょう?聞こえたから五右エ門さまは

太刀筋を変えて…、だから軽症ですんだのよ。」


そう、あの時、幻覚が紫を鎧武者に変えて、五右エ門は真っ直ぐに向かってくる鎧武者に漸鉄剣を構え、

思い切り振り落とそうとした瞬間 ―――――――――――




(―――――――五右エ門さま…!!)

「!!?」




確かに、      確かにそれは紫の声だった。






―――――――ザッ!!





紫の左腕からタラリと生暖かい血が一筋流れた。



声がした瞬間、五右エ門の太刀筋が乱れ、漸鉄剣は紫の左腕を傷つけてしまった。

その後、五右エ門はルパン達に幻覚ガスが立ち込めた部屋から外に出され、ようやく気が付くのだった。




「あの時…、本当に斬られちゃうかも、って思っちゃった。…でも、きっと五右エ門さまなら気付いてくれるって

私の声が聞こえるはずだって思ったから……。」


紫はうなだれる五右エ門の顔を覗き込んで、二コリと微笑む。

だが、五右エ門はそんな紫の笑顔にいたたまれない感じがして、すぐに目をそらしてしまった。


紫は五右エ門の肩に手を置くと


「……聞こえたでしょ?」


五右エ門の耳元まで、息がかかるくらいの至近距離でボソリとささやくと、すぐに離れた。


紫のこんな時にもそんないたずらな仕草に少し顔を赤らめながら


「………聞こえた…、でござる。」


ボソリという五右エ門にクスリと笑うと

「きっと私たちの
のパワーよ!愛の力で幻覚ガスに勝ったのよ!!ラブisパワーよ!五右エ門さま!!」

紫はそういうと目をきらめかせてガッツポーズで五右エ門に笑う。

落ち込んでいる五右エ門に、左腕の傷はもう大丈夫だから元気出して、と安心させるように紫は明るく振舞う。

そんな紫の気持ちにも五右エ門は気付いていたが、やはりやりきれなかった。




「……すまない…。」


ふと、五右エ門は腕を伸ばし、そろりと紫の包帯が巻かれている左腕を取る。

紫の白くて細い腕に巻かれている包帯に少しだけ血が滲む。

それがやけに痛々しく感じて、


包帯の上からその傷を癒すように、優しく口付けた。


「!?」


いきなりの五右エ門のそんな行動にドキリと胸が鳴る。


「ごっ、五右エ門さまっ…!?」


「…傷つけたくないのです。



紫殿の為に、ここまで来たのに…!拙者が守ると決めていたのに、

拙者が傷つけてしまった……、

もし、…もしあの時、紫殿の声が聞こえなかったら…

拙者は……



本当に、すまない…。」


紫の腕を頬にあて、五右エ門は悔しそうにつぶやいた。


「…五右エ門、さま……。」




こんなに大切に想われていたなんて、愛されていたなんて、

紫は哀願するように、すまないとつぶやく五右エ門に、腕をするりとそのまま背に回し、

まるで泣く子をあやす様に、優しく五右エ門を抱きしめた。


「……うれしい、五右エ門さまがそんなに私の事、想ってくれてるなんて…、

私、やっぱり五右エ門さまの奥さんになりたいな。」


「紫、殿…。」


「あんまり自分を責めないで、私は大丈夫だから。

五右エ門さまは、すぐそうやって修行が足りないとか言って落ち込んじゃうんだから…、

大丈夫!五右エ門さまは強いわ!!」




ふと、紫は思った。


「だから…、」


今まで修行ばかりをして旅を続けていたという五右エ門の話を思い出した。

強さを求め、未熟な己を鍛えるため、修行をするのだと。

「…だから…」


だから、この事でまた修行に行ってここからいなくなってしまうのではないかと





予感してしまった。






「紫殿!?」


五右エ門がいきなり慌てだす。

紫はぽろぽろと涙を流していた。

「大丈夫ですか?傷が痛むのですか?紫殿?」

泣いている紫を見ておろおろと慌てて紫の顔を覗き込む。



「…五右エ門さま…、やだ、私……。」


思わずそんな事を思ったとたんに、涙が出てしまった。

(そんな事、ないよね。五右エ門さまが、いなくなるなんて…)


「紫殿、すまない、その…、拙者がこんな……。」

「ううん、違うの、五右エ門さま。…違うの……!」

涙をふいて、五右エ門に笑顔を向ける。


「ね、五右エ門さま、私は大丈夫よ!今のは…、ちょっと悲しい事考えちゃって…、

ほら、五右エ門さま、そろそろ行きましょう!早くしないと風魔達が…!ね!?」


立ち上がると五右エ門の腕を引っ張る。


「紫殿…。」



笑顔を五右エ門に見せてはいるものの、紫の不安は消えなかった。

(大丈夫よ…離れたりなんかしない、どこにも行ったりなんかしないわ…、

ね?五右エ門さま……。)



自分に言い聞かせるように、不安を消そうとする。



ふと、五右エ門は自分の腕を引っ張る紫の腕を逆にぐいっと引っ張って

紫を自分の腕の中に導いた。

突然、五右エ門に抱き締められた紫は一瞬、何が起きたのかわからなかった。

あまりの突然の行動に、一気に体温があがり、

胸がドキドキと鼓動する。



「ご、五右エ門さま!?」

「…ありがとう、紫殿…。」


「……え?」




「拙者が付けたその傷は、拙者が一生を懸けてあなたに償おう。

この先、もし互いが離れる事があったとしても、拙者の心は、

――――――――――― あなたの元にあります…!」







「!!……………五右エ門…さ…ま…」









―――――――――――  ア  イ  シ  テ  ル  





声にはならなかった


五右エ門の口元がそう囁いた。



またも、紫の頬に一筋の涙が流れたのを五右エ門がその涙をぬぐうように

その頬にキスをして


その反応にぴくりと紫が少しだけ逃げ腰になりそうになったのを

腰に手を回して引き寄せ


紫の後頭部に手をやり




優しく、甘く、長い 


キスをした。



























――――――――――― イ  カ  ナ  イ  デ



声にはならなかった


紫の口元がそう




囁いた。









―――――――――――  この予感は、



当たっていた。










→あれ?なんか暗くない?暗いなぁ。
とりあえず、あのゴエさんが幻覚ガスで紫ちゃんを傷つけるところのシーンを、あのあたりの
二人を書いてみたかったんですよ。もう、ゴエさんに斬られそうになるところなんか勝手に妄想して
書いちゃいましたよ。いや、実際はどうやってあんな軽症ですんだんでしょうねぇ?
その後の、うなだれるゴエを慰める紫ちゃん達をもうちょっと見たいなぁ、なんて思ったもんですから
勝手に妄想しちゃいましたよ。いや、でも絶対チュウのひとつくらいはしてるだろ!絶対!!!
もうちょっと文章力ほしいなぁ、おい。。。(-_-;)











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